老人ホーム 管理栄養士奮闘記  ~介護予防~

こんにちは。外部執筆スタッフの管理栄養士 長谷川晴美です。

管理栄養士奮闘記と題しまして、有料老人ホームでの経験をお伝えしていきます。

今回は 介護予防についてです。

皆様の何かのお役に立てれば、嬉しいです。

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有料老人ホームにおける介護予防

介護予防は、要介護状態の軽減または悪化の防止だけでなく、将来、寝たきりや引きこもりにならないように他の方との関わりを促し、生活の質(QOL)を上げることを目的としています。

それは、要介護状態にならないよう、単に運動機能や栄養状態などの改善を目指すものではなく、個々の生活や役割を通じて、入居者が自立した日常生活ができるよう、生きがいを感じられるようにサポートをすることです。

このような日々の生活を継続するには、介護が必要な状態になる前に予防策に取り組むことが大切です。

介護予防の項目と概要(厚生労働省:介護予防マニュアルより)

私が勤務していた有料老人ホームでは、厚生労働省の介護予防マニュアルをもとに、現状のチェックや改善箇所を洗い出し、よりよくするための取り組みをしていました。

以下に、項目と概要を抜粋しました。

 

①運動器の機能向上

移動は日常生活の基礎をなすものであるが、下肢や体幹の筋力低下又は膝や腰の痛みは、高齢者の移動能力の低下を引き起こす最も大きな要因となっており、運動器の機能向上プログラムは、 高齢期の生活機能を維持・改善するために大変重要である。

運動器の機能向上プログラムは、二次予防事業対象者、要支援者を中心に広く実施されることによって、その効果が理解されるようになってきている一方で、プログラムが必要と考えられるより多くの対象者に対して実施されるよう、いかに動機づけるかが重要となっている。

② 栄養改善

栄養改善サービスは、日常生活において「食べること」を支援し、低栄養状態の予防や改善を通じて高齢者がいつまでも「食」を楽しみ、自立した生活を送って、生活の質(QOL)の高い社会の実現を目指すものである。

高齢者の低栄養の予防や改善での課題は多岐に渡る。一次予防(全高齢者対象)においては 「食べること」を大切に考え、支援を行う地域活動を育成し、健康・栄養教育や地域のネットワークづくりを行う。

二次予防(要介護状態になるおそれのある高齢者対象)においては、管理栄養士が、他の関連サービスや対象者の身近な地域資源と連携し、栄養ケア・マネジメントを行う。

特に、訪問型介護予防事業においては、訪問の保健師等と管理栄養士との連携が重要である。

栄養改善サービスは、食事の内容だけでなく、おいしく食べることや食事の準備などを含む、高齢者の「食べること」を総合的に支えるものである。

③ 口腔機能向上

平成 18年度施行の「地域支援事業」と「予防給付」に新たなメニューとして「口腔機能向上プログラム」(地域支援事業では「口腔機能向上事業」、介護保険サービスでは「口腔機能向上サー ビス」)が導入された。

それは、明るく活力ある超高齢社会を実現するために、高齢者の口腔機能向上をはかることが不可欠であると、学際的根拠のもと立証されたためである。

現在、本サービスは徐々に普及してはいるものの、まだ十分とは言えない。その理由には、以下のようなことが 挙げられる。

①対象者本人(高齢者)が口腔機能向上の必要性について認識していない。

②事業提供者が、効果を具体的にイメージできない。

③事業実施に至る手続きが煩雑である。

④口腔機能向上支援の専門職が不在である。

これら課題を踏まえ、口腔機能向上の展開をさらに充実していくために、その考え方と手法を 本マニュアルで紹介する。

口腔機能向上支援は、いつまでもおいしく、楽しく、安全な食生活の営みを目指す

本事業は以下の 3つの軸から構成されている。

*口腔機能向上の必要性についての教育

*口腔清掃の自立支援

*摂食・嚥下機能等の向上支援

 

④ 閉じこもり予防

閉じこもり症候群とは、生活の活動空間がほぼ家の中のみへと狭小化することで活動性が低下し、その結果、廃用症候群を発生させ、さらに心身両面の活動力を失っていく結果、寝たきりに進行するという考え方である。

老化に伴い、さまざまな原因で外出頻度が少なくなり、生活空間が屋外・地域から自宅内(敷地内を含む)へと狭くなっていく。屋外や地域で、やるべきことがないと、どうしても日中の生活空間は屋内になりやすい。

また、家庭における役割(買い物など)がない、あるいは地域社会 における役割がないと、外出の頻度が低くなる。

閉じこもり予防は、外出頻度自体を増加させることが目的ではなく、屋外、社会における役割を担う結果として、外出頻度が増え、生活全般を 活性化させることが本来の目的である。

寝たきりの原因としての閉じこもり症候群をもたらす要因には、身体的、心理的、社会・環境 要因の 3要因が挙げられており、相互に関連して発生してくると考えられている。

また、閉じこもり高齢者はさまざまな要支援・要介護のハイリスク状態を併存 している場合が多い。

例えば、社会活動が不活発であることが認知症の発症リスクを上げると考えられていることから、閉じこもりは認知症の発症のリスクとなっている可能性がある。

また、 閉じこもり状態が長くなることで、人との交流が減り、会話も少なくなり、気分的にも落ち込んだ気分になっていき、うつ傾向になっていくこともあると考えられる。

さらに、例えば、低栄養状態であるために体力がなく、外出する意欲も低下して、閉じこもりになっているという場合もあろう。

⑤ 認知機能低下予防

高齢社会の進展により認知症高齢者の増加が予測され、その予防が喫緊の課題となっている。

認知症とは、いったん獲得した知的機能が持続的に低下し、複数の認知機能障害のために社会生活に支障をきたすようになった状態と定義されている。

しかし、実際の認知症(特にアルツハイマー病)による症状が出現する十数年前から脳内では タンパク質の異常な蓄積が既に始まっており、認知症と診断される時期には相当の神経細胞が機能不全に陥っていると考えられている。

従って明らかな認知症を発症した時点では 予防対策は極めて困難である。

認知症を予防するためには、その前段階とされる「軽度認知機能障害」(Mild Cognitive Impairment : MCI)の時期で認知機能低下を抑制する方法が現時点では最も効果的であると考えられている。

今回の本マニュアルの改定では認知症の予防ではなく、あくまで認知症予備群としての MCI 高齢者における認知機能低下の予防を目指したものである。

本マニュアルにおいては地域在住の高齢者に対し、MCI の可能性の高い高齢者のスクリーニン グとともに有効性の確認された運動習慣化プログラムを提供することにより、認知機能低下を予防(抑制)することを目的として作成されている。

引用文献

厚生労働省:介護予防マニュアル改訂

介護予防の実際

介護予防委員会(表向きの名称は生活向上委員会)を立ち上げ、厚生労働省の介護予防マニュアルをもとに、項目ごとに対策を考え実施していきました。

コロナ禍の今は、なかなか開催しづらい内容もありますがご参考にしていただけたらと思います。

①運動器の機能向上

◎朝の体操

毎朝、準備体操・ラジオ体操第1・棒体操を行っていました。

棒体操の棒は、以前は通信販売をされていたのですが、終売になってからは厨房で出るラップの芯を代用しました。

長年行っているにもかかわらず、参加率が低いことが問題にあがり、参加率を上げることを考えました。

参加人数が増えても対応できるよう、安全を考え、職員一人体制を三人体制にしました。

「マンネリが原因ではないか」「部屋でできるもの以外がいいのではないか」と考え、ウォーキングの時間をプラスすることにしました。

五街道ウォーキングと題して、東海道五十三次等の地図を作り、歩いた分のシールを貼っていく遊び心がある企画にしました。

また、朝の体操に参加するごとにポイントがたまるポイントカードを作って、当施設のティーサロンの無料券になるサービスも行いました。

参加率は劇的にアップしました。

◎介護予防教室

現在は、理学療法士1名が常駐しているようですが、以前は週1回の勤務体制でした。

通常の業務の、リハビリや評価があるので、理学療法士による介護予防教室は年に何回か行う程度でした。

私が、健康運動指導士の資格を取得したこともあり、介護予防委員会の管轄で月1回以上実施する運びとなりました。

校歌のように施設の歌があり、その歌に合わせた体操を作りました。

春夏秋冬で四番まであったので、それに合わせて上半身・下半身・全身・脳トレ体操を作り、立ったバージョンと座ったバージョンを撮影し、プロジェクターで映してそれを準備体操にしました。

健康運動指導士の講習会で知り合った大先輩の管理栄養士さんに、静岡市の「しぞ~かでん伝体操」をご紹介してもらい、それを介護予防委員会に提案しました。

その結果、「とてもいい」という評価で、静岡とは縁もゆかりもないのですが、そのまま使わせていただくことになりました。

映像を見ながら施設の歌の準備体操、でん伝体操、お茶タイム、最後は定期的に変更してレクリエーション的なフォークダンス等のプログラムにしていました。

こちらも、参加率の高いものになりました。

② 栄養改善

当時は、特定施設では加算がとれませんでしたが、栄養ケアマネジメントに沿って行っていました。

詳しくは、過去のブログ「介護食」や「栄養ケア」編でご確認くださいませ。

③ 口腔機能向上

◎口腔ケア

訪問歯科を利用し定期的な歯科検診、個々にあった食後の歯磨き法や口腔洗浄液の使用など、ケアマネージャーが事細かにケアプランに入れていました。

介護職員の技術向上のための、口腔ケアの研修も行っていました。

◎介護棟デイルーム

介護棟では、毎日午前午後に、体操やレクリエーション、お茶タイムを行っていました。

お元気な方でも、どなたでも参加可能でした。

口腔機能向上につながるよう、今井一彰氏の「あいうべ体操」や早口言葉、合唱、カラオケなどレクリエーション感覚で行い、皆様楽しまれているご様子でした。

評価はなかなか難しいですが、効果はあったと思います。

④ 閉じこもり予防

毎日の朝の体操やデイルーム、行事等への参加を促す声掛けはもちろんのこと、食事は居室配膳ではなく、できるだけ食堂へ出ていただけるような席の工夫等もしていきました。

食堂は自由席であって自由席でない状態で、自然と席が決まっていたので、新入居者の方には、相性のよさそうな入居者と橋渡しをして、お友達作りをしやすいようにしていました。

◎ティーサロン

月1回、話題のスイーツやご当地スイーツを取り寄せて、職員も交えてお茶会を行っていました。

ここで、朝の体操のポイントカードを使用できます。

スイーツと紅茶かコーヒーで\500、職員は飲み物のみで無料です。

お友達同士で来られたり、介護棟の方の参加もあり、職員ともゆっくりお話しができるので喜ばれていました。

いつも、満席でした。

◎クラブ・ボランティア等

趣味が持てるように、できる範囲で選択肢を用意していました。

有料で外部の先生をお迎えして、コーラス会(初級・中級)、器楽の会(打楽器)、ピアノ教室も行っていました。

入居者主導の、カラオケクラブやDVD鑑賞会も行われていました。

囲碁将棋が趣味の方には、地域のボランティアを活用して、お相手をお願いし、個人の趣味も楽しめるようしていました。

庭づくりや外のお掃除、図書室の整理など、自主的にボランティアをしてくださっている入居者には、敬老祝賀会で表彰(御礼)をする形にしていて、嬉しそうなお顔からは、やりがいや生きがいを感じていただけているように見えました。

⑤ 認知機能低下予防

◎脳トレ教室

月1回開催していました。

内容は、脳トレ関係の本から抜粋した国語系や数字系やクイズ系の問題のプリントを各自行ってもらったあと、「アハ体験映像」という、画像が変化している場所を探す脳トレを、みんなで見て和気あいあい楽しんでもらうパターンにしていました。

評価を好まない入居者もいることから、プリントの答えは最後にお配りして、居室に帰ってから自分で採点してもらう形にしていました。

希望者には定期的に認知度テストを行い、変化をみることもしていました。

実際、しっかりしているようにみえた入居者が、不得意や不慣れだけでは説明できない程度の認知度を発見したケースもあります。

こちらも参加率高めの企画になりました。

管理栄養士ができること

以前、ドクターによる特定保健指導のセミナーを視聴しました。

そこで「管理栄養士は栄養の細かい話をするので、そこを知りたい人にはいいけど・・・まんべんなく話せる保健師が合う人もいますね。」

と話されていました。

私は「そうかなぁ、たまたま必要性を感じて栄養の細かい話をしていたのではないかなぁ。

運動や睡眠の話もするけどなぁ」と、そこだけを切り取られた感じがして、とても違和感がありました。

感じ方は人それぞれですが、皆様はどう思われましたか。

食と関わる私たち管理栄養士は、必然的に栄養だけでなく、運動機能、口腔機能、QOLに関わることになります。

食べるためには、座位を保たなくてはいけませんし、箸を口に持ってくる運動機能、噛む力や飲み込む力の口腔機能、食堂での他入居者との好ましい関わり、食を楽しめる心が必要です。

栄養全般だけでなく、栄養以外の知識と経験もそなえ、他部署と連携し、個々に合わせたケアプランの作成・実施・評価に関われるようになることが理想です。

場数をふむことが一番ですが、外部セミナーや、内部の他部署の研修に参加するのも有効です。

学びをとめないことが大切ですね。

終の棲家である有料老人ホームでは、入居者とのお別れは必ず訪れ、どんな形であっても悲しいものです。

最後まで美味しく食べ、自分の足で歩き、穏やかな気持ちで楽しい時間を過ごしていただけていたのであれば、そのお手伝いをしている私たち職員としては嬉しい限りです。

なかなか思いが伝わらない、結果が出ない時もあると思いますが、無駄なことはないと信じて、あきらめない心で、日々前向きに取り組んでいただけたらと思います。

心から応援しています。

次回は、行事・行事食についてお伝えする予定です。