こんにちは、執筆スタッフの首藤です。
五臓(肝・心・脾・肺・腎)にはそれぞれ活発に働く季節があると言われています。
西洋医学では「肝臓、心臓、脾臓…」と臓器には「臓」が付きますが、中国伝統医学(以下中医学)では「肝、心、脾…」というふうに「臓」は付かず、臓器とその働きも含めた意味合いを表します。
5月5日に立夏を迎え、暦の上では夏が始まります。夏に活発に働く五臓は「心」ですが、あえて今回は春に活発に働く「肝」をテーマにしたいと思います。
なぜ「肝」についてお伝えするのかというと、「肝」はストレスと関わりが深い五臓だからです。
春は環境の変化や人の入れ替わりなど、ただでさえ何かしらのストレスを感じやすい時季なのに、今年はコロナウイルスの感染拡大もあり、行動の制限、連日の報道など精神的な負担が大きかったかと思います。
よく「お酒は飲まないから、肝臓は心配ない」と言われる方がいらっしゃいますが、中医学では「肝」にとって、ストレスも大きな負担となってしまうのです。
「肝」の働きについて
では、「肝」の働きについて見ていきましょう。
主な働き①「気(き)・血(けつ)の流れをスムーズにする」
のびやかな流れを作り、身体のすみずみまで栄養・血液などを行き渡らせることで、全身の器官が働きやすくなり、精神を安定させます。消化機能の正常な働きも促します。
主な働き②「血を貯める、体内に流れる血の量をコントロールする」
食べたものから作られた血を貯めておいたり、それぞれの器官に届く血の量をコントロールしたりします。
春は本来「肝」がのびのびと働きやすい季節だと言われていますが、緊張やストレスで窮屈さを感じると働きが悪くなってしまいます。
結果、気・血がスムーズに全身に行き届かず、身体の生理機能の滞りや、精神の不安定さが見られるようになり、イライラや怒りっぽさを感じやすくなります。
ため息やゲップは気の流れが滞っているサインですし、頭痛・肩こり・不眠の原因や、消化吸収に関わる「脾」の働き低下にも繋がります。
また自宅で過ごす時間が多いと、スマホ、パソコンの使用、テレビ番組を観る時間が増えがちですが、実は目と「肝」は関わりが深いとされています。
目を酷使すると「肝」に貯めた血をどんどん消耗してしまいます。(血が不足している時の症状は「第5回の身体を構成する三要素②」をご覧ください)
「肝」をいたわるには…
では、「肝」をいたわるには、どうしたらいいのでしょうか。
・気の流れをよくする食材を摂る
気の流れをよくすることは、血の流れをスムーズにすることにも繋がります。
「肝」はのびやかな状態を好むのです。
気の流れを良くするために、すぐ出来ることは「香りの良い食材」を選ぶことです。
例えば柑橘類やハーブです。
柑橘類やハーブはアロマオイルにも使われていることを考えると腑に落ちるのではないでしょうか。
写真はレモンを使ったケーキです。
よく作られるカップケーキなどのレシピがあれば、そちらにレモンの絞り汁を加えたり、農薬不使用のレモンであれば皮をすりおろして入れたりするのもよいでしょう。
焼き上がってオーブンを開けた時に溢れる香りはたまりません。
陳皮など柑橘類の皮は、生薬でも気の巡りをよくするものとして使われます。
香りが良いとは言えないですが、実はラッキョウの鱗茎も気の巡りをよくする生薬として分類されています。
その他、米麹、玉葱、ピーマン、適量のワインも気の巡りを良くすると言われています。ハーブティーやジャスミンティーもおすすめです。
・「肝」の働きを助ける食材を摂る
レバーや小松菜・ほうれん草などの青菜がおすすめです。
貧血の食事療法に近いイメージです。
「肝」の働きを活性化させ、血の量・流れが正常にコントロールされるようにサポートする食材です。
イライラ、不眠、目の充血が気になる方には…
ストレスや目の使い過ぎで「肝」を酷使すると、熱がたまりやすくなり、イライラ・不眠、目の充血などの症状が出やすくなります。
酷使された電化製品のモーターが熱くなった状態をイメージすると少しはわかりやすいでしょうか。
「肝」の熱を冷ますといわれている食材にはクレソン、セリ、セロリ、トマト、ピーマン、穴子等があります。
薬膳茶では、菊の花の乾燥したものがよく使われます。
クコの実と組み合わせるのが王道で、上海のタクシーで運転手さんが運転中に飲むのをよく見かけました。
それぞれの五臓には届きやすい味があります。
「肝」の場合は、酸味で、酢はもちろんのこと、梅や柑橘類等、酸味と、これまでにご紹介した食材を一緒に摂ることで、効能が「肝」により届きやすくなると考えます。(例…青菜の梅和え、トマトのマリネ)
お料理の風味づけに香りのいいものや酸味を感じるものを使えば、「肝」をケアする一品になります。
ただし酸味は摂り過ぎてしまうと「肝」をきゅっと硬直させてしまい、のびやかな状態ではなくなってしまうので、酸味の料理ばかりに偏らないように注意しましょう。
ストレスの原因をコントロールするのは難しいことだと思います。
しかしストレスを受けた自分をケアすることは大切です。
ぜひストレスで負担のかかっている「肝」を労わるように心がけてみましょう。
参考文献:
現代の食卓に生かす「食物性味表」:日本中医食養学会
中医基礎理論:上海科学技術出版社
五臓をのぞき、活かす肝/心/脾/肺/腎 みんなの臓活;ワニブックス
※前回のコラムはこちら
薬膳に親しもう! 第7回 免疫力を高めよう~ウイルス・花粉に負けない身体づくり~
薬膳に親しもう! 第6回 紅茶で冬の身体を労わろう
薬膳に親しもう! 第5回 身体を構成する三要素 その2
薬膳に親しもう! 第4回 身体を構成する三要素 その1
薬膳に親しもう! 第3回 食性
薬膳に親しもう! 第2回 五味の作用
薬膳に親しもう! 第1回 薬膳とは